ございます、とは続けられなかった。
 だって男の顔が、とんでもなく怖かったから。
 笑みを浮かべていたピケの顔が、一瞬で凍りつく。

「ひぇ……」

 目と口を開けたまま、放心状態で見上げてくるピケに、男は責めることなくヘラリと笑みを浮かべた。
 笑うと目尻にしわができて、顔面凶器のような印象がわずかばかり和らぐ。
 おそらく彼は、ピケと同じような反応をされることに慣れているのだろう。「すまねえなぁ」と苦く笑みながら、男はピケの頭をワシャワシャと撫でた。

「おじちゃんの顔、怖かったか? よしよし。おじちゃんは、顔は怖いかもしれないが優しい男だからな。怒ったりなんてしないから、安心しろ。むしろ、泣かずに礼を言えたお嬢ちゃんがすごいって思うぞ」

 ガサツそうな見た目に反して、ピケの扱いは丁寧だ。
 気遣うようなしぐさでゆっくりと地面に降ろされて、ピケはキョトンとする。

「いやぁ、これくらいの年齢の子はかわいいな。特に女の子はいい。俺のところは息子ばかりで、目の保養が足りん」

「ジョシュア。彼女は十六歳だ。あまり子ども扱いしてやるな」