──かと思われたが。
 気づくとピケは、見知らぬ大きな男に首根っこを掴まれ、猫の子のようにプランプランとぶら下げられていた。

「あっぶねぇなぁ。アドリアン、こんなちびっ子相手に反射で蹴るな。死んじまうだろうが。俺が助けに入ってなけりゃ、今頃あそこにめり込んでたぞ?」

 男の親指が、背後の壁を指差す。
 頑丈な壁にめり込むところだったと言われて、ピケは顔を真っ青にした。

「すまない。助かった、ジョシュア」

「おもしろいもんが見られたし、チャラにしてやるよ」

 どうやらピケは間一髪のところで男に引っ張られ、アドリアンの一撃から逃れたらしい。
 全身は痛むが、蹴りによるけがはない。

(た、たすかったぁぁぁぁ……とっさとはいえ、総司令官様に卑怯(ひきょう)な手は悪手だったか……)

 今後は絶対にしない。
 ピケは強く、心に刻んだ。
 そして、危険な場面に臆することなく飛び込んで助けてくれた恩人に礼を言おうと、自分をぶら下げたままアドリアンと話し込んでいる男を見た。

「あの……助けてくださってありがとう……っ!」