それでも、魔獣の恋はたった一度きり。恋した相手をいちずに愛し抜く。
 でももしかしたら、とアドリアンは思う。
 マルグレーテ・クララベルを筆頭とした魔獣研究者たちによって日々真実が明かされていってはいるが、獣人についてはまだまだ未知な部分が多い。
 ノージーが恋をした少女、ピケ・ネッケローブについて知れたら、何か打開策が見つかるかもしれない。

 目をつけた少女を鍛えられる上に、魔獣の恋の打開策を得られるかもしれないチャンスが目の前に転がっている。
 アドリアンはチャンスだと思った。これを逃す手はない。そのためなら、多少口が滑るのも致し方ないことだ、と。

「侍女を続けるつもりなら、俺の訓練を受けておいて損はないはずだ」

「なぜです?」

「……暗殺者はまた現れる」

 アドリアンの言葉に、ノージーはムッとした顔をした。
 緑色の目がギラリと光る。まるで、暗闇に潜む獣のように。
 スッと細めた目でアドリアンを見やりながら、ノージーは言った。

「物騒なことをたやすく言うのですね」

 ネズミをいたぶっている時の猫のようだ、とアドリアンは思う。
 気のせいか、口元には笑みが浮かんでいるようにも見えた。