(ノージーが、怒っている)

 獣人の姿になってからここまで怒っている彼を見るのは初めてのことで、ピケは珍しいものを見るように目をまん丸にして見つめた。
 不意にパタパタと地面を何かがたたくような音がした気がして、ピケは視線を落とす。
 見てみると、ノージーのロングスカートの裾から長い尻尾の先がはみ出していた。
 尻尾の先は太く膨らみ、バタバタと左右に大きく振っている。

(それも、かなり怒っているみたい)

 この前傾姿勢も、おそらく怒っているせいだろう。
 猫は怒ると、背中を丸めるものだから。

 ピケは再び、顔を上げてノージーを見た。
 威嚇するように鋭い目をしていた顔が、ピケが見ていることに気づくと一瞬で甘くとろける。

「おあ……」

 思わずおかしな声を漏らすピケを、ノージーは奇妙なくらい凪いだ顔で覗き込んでくる。

「大丈夫ですか?」

「うん」

「今すぐこいつを片付けますので、いい子で待っていてくださいね」

 ピケが感じた違和感はこれだったらしい。
 ノージーは怒っている。ピケが思っている以上に。
 凪いだ顔は貼り付けただけに過ぎず、しかしピケの前ではかわいい猫でいようとしている様子がありありと伺えた。