「先日、城内に侵入した者がいる」

「……」

 思い当たる節があるピケは、抵抗をやめておとなしくなった。
 静かになった彼女を担ぎ直しながら、アドリアンは言う。

「あれは手練れの暗殺者だった。ロスティの鍛えられた軍人さえ、一撃を入れることが難しいくらいの」

「え」

「やったのは、おまえだろう? ピケ・ネッケローブ」

「いやぁ〜ははは。ま、まさかぁ。だって私、ただの侍女ですし」

「ごまかしても無駄だ。初めて見た時から、俺はおまえに目をつけていたのだからな」

 スルリと、男にしては細い手がピケの足を伝い上がってくる。
 足首から、脛へ。無遠慮な手が、スカートの中に入ってくる。

「っ!」

 恐怖と羞恥でピケは暴れようとしたが、どうやっているのかびくともしない。
 ピケの目が、絶望に染まった。

 強い男の人はこわい。だって、なにをされるかわからないから。
 現にピケは今、まったく身動きがとれない状況で足を撫でられている。
 助けを呼ぼうと口を開いても、かすかに声帯が揺れてヒーという掠れた音しか出なかった。