ピケは今、アドリアンに抱っこされている。
 お姫様抱っこならぬ、お米様抱っこというべきだろうか。要は、肩に担がれている。

 クラクラするのは地面が遠いせい?
 いや違う、とピケはすぐさま心の中で断言した。

 木登りが得意であるピケが、この程度の高さで怖気付くはずがない。
 クラクラするのは、男の人に触れられているせいだ。それはもうガッチリと、力強く彼女は抱き上げられている。

 できれば穏便に、地面へおろしてもらいたい。
 今のピケはちっとも冷静じゃないから、落とされたら顔面から着地しそうである。

「いやいやいや。そうか、じゃないです。どこへ向かっているのですか? 私をどうするおつもりですか? そもそも、どうして私を抱っこしているのです?」

「説明が必要か?」

「必要だから聞いているのです。説明しろ、ください!」

「仕方がないな」

 そう言うと、アドリアンは面倒臭そうにため息を吐いた。
 ため息を吐きたいのはこっちだ、とピケは涙目で彼を睨む。ただし、見えたのは彼の後頭部だったけれど。