ここへ来たばかりの頃にレッスンで聞いたのだが、彼らが強さに執着するのは、ロスティ(ここ)が豪雪地帯だからということに起因しているようだ。
 長い冬の間は食料を得ることも難しく、人々は一年中、冬を生き延びるための蓄えについて考えていた。
 体が弱ければ寒さに勝てず、食料を得るための仕事も体が資本。となれば、強くなるしかないだろう!──ということらしい。

 そんなわけだから、この国では強さの頂点に君臨する軍の総司令官──アドリアン・ゼヴィンが大人気だ。
 権力も財力もあるが、なによりも彼は強い。
 この国において、強いことは何物にも変え難いステータスなのである。

 三十五歳にして未だ独身である彼のもとには毎日のように縁談が持ち込まれ、彼を見習って生涯独身を誓う青年もたくさんいるのだとか。
 とある貴族の令嬢が彼の寝室へ忍び込んで「ひと夜の情けを……」と誘惑したらしい、なんてうわさも耳にしたから、大層おモテになっているに違いない。

 でも、とピケは思う。

「だからといって、これはないと思うのです」