ギラリと狩人の目をしたピケは、目の前の獲物を一撃で倒せる方法はないかしらと思案する。
 よろよろと立ち上がる影は、おとなしく倒れているつもりなどないようだ。
 よく見えないが、手負いの獣特有の追い込まれた視線を感じる。
 なんとしてでもここから逃げてやるという強い気持ちが伝わってきて、ピケも負けじと睨み返した。

「おや? こんなところで、どうしたのですか?」

「っっ⁉︎」

 緊迫した空気が、一瞬で崩れる。
 逃げられる! とピケが慌てて気を引き締めた瞬間、影が断末魔のようなひどい悲鳴を上げて倒れ込んだ。

「おやおや。どうやら招かれざるお客様がいらしていたようですね、ピケ?」

「っ……ノージー」

 コツコツと廊下を歩く音が響いて、ピケの目にじわりと涙が浮かぶ。
 倒れた影を挟み撃ちするように、向こう側から慣れ親しんだ気配が近づいてきた。

「ええ、ノージーですよ」

 床に伸びている影を跨いでピケのそばまで歩いてきたノージーが、彼女の背を優しい手つきで撫でる。
 そのまま引き寄せるように胸に顔を押し付けられて、ピケはたまらずギュッと抱きついた。