ピケの背後で、何かが着地するような音がした。
 反射的に振り返って、ランタンで照らす。
 ほんのり明るくなった廊下の先に、影がいた。

 見た瞬間、ピケの本能が「敵だ」と警鐘を鳴らす。
 彼女はためらうことなくランタンの火を消すと、できる限り気配を殺して駆け出した。
 狩人の一面を持つピケは、走っている時も足音を立てない。
 あっという間に影との距離を詰めた彼女は、大きく踏み切って跳躍し、空中で影を蹴った。

 意表をつかれた影が吹っ飛び、盛大な音を立てる。
 音から察するに、誰かの部屋の扉へぶつかったらしい。
 ガッチャンと金具が壊れるような音を聞いて、ピケは焦った。

(手負いの獣は何をするかわからないわ!)

 あんなに大きな音を立てたら、寝ている人だって起きるだろう。
 様子を見に扉を開けた瞬間、人質にとられてしまうかもしれない。

(そうなったら大変だわ! 誰か出てくるまえに、仕留めなくっちゃ)