だが、そんなことを思いつつも彼女の気持ちは落ち着かない。
 さきほどの出来事でノージーの暗い一面を垣間見てしまったせいだろうか。

(それとも……かわいいとか……き、ききき……言えないっっ! アレとか……聞いちゃったせい?)

 キス、なんて心の中だって言えやしない。
 こう見えて──見た目通りかもしれないが──ピケは純粋なのだ。

(ノージーはなにを考えているのかしら?)

 考えてみれば、彼については知らないことばかりだった。
 子どもの頃から一緒に過ごしてきたが、人と猫が本当の意味で意思疎通をする術はない。なんとなくそうかなといった風にピケが勝手に思っているだけで、実際のところはわからないのだ。
 ノージーが人の姿になってからもよくよく話を聞いたことはなく、ピケは今更ながらに『ノージーとは?』と疑問を持った。

 チラチラと物言いたげな視線に気づいたのだろう。
 ノージーが、つないでいた手を軽く引き寄せる。ピケがトタタッとたたらを踏みながら近寄ると、彼はやわらかく抱きとめてくれた。

「どうしたの? ノージー」

「あちらのベンチで休みませんか。日差しがあるから、少しくらいなら寒くないでしょう?」

「わかった」

 さきほどよりも少し近くなった距離で歩きながら、並木道を外れ、ベンチへ腰掛ける。
 なんとなくノージーの雰囲気が変わったのを感じ取って、ピケは落ち着かなげに足を揺らした。