ピケに、誇れるものはない。
 彼女たちに言い返せる要素は何一つなく、ピケは黙って俯いた。
 ギュッとこぶしを握り、震えそうになる体を堪えて唇を噛む。

(だって……その通り、だから……)

 窓ガラスに映った自分を、すてきなレディだなんて、どうして思えたのだろう。
 服はすてきでも、中身がピケではどうやったってレディにはなり得ないのに。

「ねぇ、ちょっと見て。隣にいる人、すごい美人!」

「わぁ、本当! すごくかっこいい。なのに、あんなイモの観光案内をさせられているの? なんて、かわいそうなのかしら!」

 隣にいただけのノージーまで標的にされて、ピケは悔しくなった。
 ピケがちゃんとしてさえいれば、ノージーが憐まれることはなかったはずだ。

 獣人であるノージーには、きっと彼女たちの声が聞こえているだろう。
 彼は一体、どんな顔をしてこの声を聞いているのか。
 ピケはこわくて、見上げることもできない。ただただ、ノージーの足元の、磨かれた革靴をじっと見つめた。

(だって……ノージーが“その通り”って顔をしていたら、私……どうしていいかわからないもの……)