ビク、とパンを持つノージーの手が大きく揺れる。
 落ちそうになったパンを慌ててキャッチしながら、口いっぱいに広がるクルミと小麦のハーモニーにピケは頰を緩ませた。

「……くそ」

「?」

「……不意打ちだろ」

「??」

 もぐもぐ、ごっくん。
 ピケの細いのどがパンを飲み込む。
 そのしぐさもノージーにとって不都合でもあるのか、彼はたまらずといった様子で、深い、とても深いため息を吐いた。

「え、ごめんなさい……なにかだめだった?」

 心底呆れたと言わんばかりのノージーに、ピケは恐る恐る問いかける。
 ノージーはテーブルの上で両手を組むと、手の甲へ顎を乗せてピケを見た。

「駄目というか……ピケは少し、僕のことを警戒すべきだと思います。いえ、警戒してください」

 ノージーの目が据わっている。
 そんなにいけないことをしてしまったのだろうか。
 ピケは不安に駆られたが、ノージーの言葉は素直に聞き入れられる内容ではなかった。

(だって、警戒なんて。誰よりも信頼しているノージーを?)

 何を言っているのだこいつは、という顔で見つめてくるピケに、ノージーが再び深い深いため息を吐く。

「これが自業自得というやつですか。僕は方向性を見誤っていたようです」

 ゲンナリと呟くノージーの言葉の意味を、ピケは理解できない。
 なんか言ってるなーくらいの軽い気持ちで流したピケは、目の前にあるおいしそうなニョッキを食べるべく、フォークを手に取ったのだった。

 厨房からこっそり二人を見ていた女店主は、いろいろ察したのだろう。
 食後のデザートだと出されたパイは、ハートの形をしていた。