紅茶にジャムを溶かして飲むのはロスティの伝統的な飲み方らしい。
 ラズベリージャムの甘酸っぱい匂いに思わずほっこり顔になっていた二人の前に、注文していた料理が並べられる。
 きのこクリームのニョッキにトマトシチュー、秋野菜のグリルに、この店自慢のパンの盛り合わせ。特におすすめなのは、庭で収穫したクルミを練り込んでいるクルミパンらしい。
 小さなテーブルの上に所狭しと乗せられた皿を見て、ピケの目が輝く。

「おいしそう……!」

 もともと大きな目をしているピケだが、おいしそうな料理を前にして一層大きくなっている。深い緑色の目がキラキラときらめいて、ノージーは目を離せない。
 じっと見られていることに気がついたピケが、ハッとなって口を一文字に引き結ぶ。
 居心地悪そうに体を縮こめる彼女に、ノージーは首をかしげた。

「食べないのですか?」

「食べる、けど……」

 けれどピケは、ノージーの視線が気になって仕方がない。
 小さな動き一つでさえ見逃さないように執拗(しつよう)に追いかけてくる視線は、妙にピケを緊張させる。

 もしやこれは、テーブルマナーが身についているかどうかの試験なのでは?
 ふと、ピケの頭におかしな心配が生まれる。
 そんな考えが浮かんでしまうくらい、ノージーの視線はまっすぐピケに向かってきていた。

「はい、どうぞ」

 困惑しきりのピケの前に、クルミパンが差し出される。

(ええと……こういう時はどうすれば良かったんだっけ⁈)

 いざやってみるとなると、考えすぎて動けなくなる。
 そもそもピケは、差し出されたパンの受け取り方なんて、習っていないのだ。
 ああ、どうしよう。どうすればいいんだっけ。
 混乱したピケは何を思ったか、小さな口をパカリとあけて、ノージーが差し出しているパンに食いついた。