生まれてはじめてのキスだった。
なのに嫌悪感がない自分にビックリした。それどころか、もっと……。
「蜂谷!」
慌ただしく近付いてくる足音。
呼ぶ声が誰のものかなんて、振り返らなくてもわかる。
あの人といると自分が自分でなくなりそう。
からかわれて嫌だったはずなのに、いつの間にか天野さんを気にしてる自分が信じられない。
庶務に戻りたいとずっと思ってたはずなのに、彼の近くにいたいと思い始めてる自分が怖い。
この気持ちに気付いていはいけない。
自分を呼ぶ声も、ドキドキうるさい胸の鼓動も聞こえないふりをして駆け出した。
それなのに……。
運動不足が祟ったのか、あっという間に追いつかれてしまう。息が切れて、暗闇に響くのは私の荒い息遣いだけ。
掴まれた手首が熱い。
「……っはぁ、二度も逃がすかっつーの」
一度目はきっと屋上のことを言っているんだろう。
自分から近付いていったくせに、私はあの日どうしたらいいのかわからずに突き飛ばして無心で階段を駆け降りたんだ。
あの時も喉の奥が焼けるように痛かった。
「なんで追ってくるんですか」
「お前が逃げるからだろ」
だって、どうしたらいいのかわからない。
この人の本心を知るのが怖い。



