「なんですか?」
「お前があのバーテンと仲良さそうだったから、相手が既婚者だってうかうかしてらんないぞっていう紅林さんの最低なジョーク」
「え、まさか不倫って、私と……光ちゃん?」
有り得ない。何があっても有り得ない事態にふるふると首を横に振る。
そこでふと、翔さんの電話での言葉を思い出した。
『不倫なんかさせるか。美樹がどんだけ泣いたか知ったっつーのに。俺は絶対泣かさない』
じゃああれは、紅林さんに向けた言葉じゃなくて。
あの『すきだよ』というセリフも、全部、私に………?
「そうやって親しげに阿久津さんを呼んでるのを聞いて、“天野さん”に戻った俺がどれだけ妬いて苛ついてるか察してくれる?」
「そ、んな。だって、なにも……」
「言葉にしてハッキリさせるのは、お前の気持ちがちゃんと俺に向いて整うのを待ってたから。他の男に持ってかれるなんてごめんだから、ちゃんと態度では示してたつもりだった」
ソファに座ったまま身体を引き寄せられ、耳元で「伝わってない?」と囁かれる。
その低く甘い声に首筋から背中、腰に向かって痺れが走り、小さな吐息が漏れてしまった。
それに気付いた翔さんがクスッと笑った気配に、恥ずかしくてなんとか腕の中から脱しようと試みるも、さらに強い力で閉じ込められてしまう。



