「でも誓って男女の仲じゃなかった。この前飲んだ時、紅林さんは当時俺に気持ちがあったと言ってくれたけど、それももう過去の話。今の彼女には部長がいる」
「でも、それでも天野さんは紅林さんを……」
電話で話しているのをハッキリと聞いた。
好きだって、泣かさないって、そう想いを告げているのをこの耳でしっかりと聞いたのだ。
「あれは、お前の話をしてたんだよ」
「……私?」
「紅林さんから部長について行くために仕事を辞めるって報告があって」
「ええ⁉」
「……今そこはいい。それで自分の話を終えたら今度はお前の心配してた」
「なんで、私の……?」
「給湯室で色々あったろ」
そう言われて納得する。
私が美山さんたちに中傷されている現場に居合わせたせいで、紅林さんまで悪く言われてしまったのを思い出した。
それなのに、関西に戻り仕事を辞める決断をしてもなお私のことを気にかけてくれる紅林さんを思うと、嬉しい反面そんな素敵な人に敵わないと嫉妬する自分の醜さに嫌気が差す。
自己嫌悪に沈む私に告げられたのは、思ってもみない事実だった。
「お前が前より笑うことが増えてさらに可愛くなったから。そのうち他の男に持っていかれるぞって発破かけてきたんだよ、あの人」
「え?」
「素直になれって、好きなんでしょって聞くから好きだって答えた」
「で、でも不倫、とか」
「あー。あれはお前が……」
少し言い辛そうにする翔さんに不安になって縋るような眼差しを向ける。



