警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました


「や、天野さん」
「なんで呼び方戻した?」
「だって」
「あすか」

名前を呼んでまっすぐに見つめる瞳。

話をするためにここに連れてこられたのなら、もう私に逃げ場はない。

観念するようにゆっくりと瞬きをしてから見つめ返す。

「まず、紅林さんとは何もないから」

初っ端から彼女の名前が出て、ビクッと身体が小さく跳ねる。

それを訝しげに見てくる翔さんの視線がいたたまれない。

「なんでそんな過剰に反応する? さっきの電話か?」
「……名前」
「ん?」

翔さんの、この優しく聞き返してくれる声が好き。

低くて甘い、穏やかな声につられるように、私はゆっくりと自分の感情を吐き出す。

「名前で呼んでた。翔って」
「あぁ、まぁ先輩だし呼び捨てもする」
「天野さんも、美樹って。だから……」
「確かに、紅林さんが関西に行く前の二年は企画部で一緒で仲が良かった。その前も教育係をしてくれてたし普通の先輩後輩よりは親密だったのも事実だ」

ついに紅林さんとの関係に話が及び、呼吸が浅くなり目頭が熱くなる。

視線を逸らさせまいと顎を掴んでいた手が頬に伸びてきて、まるで大丈夫だと宥めるみたいに耳ごと優しく包まれた。