「あすか」

低くて少し甘くかすれた声に初めて名前で呼ばれて、ぶわっと身体が熱くなる。

ずっと俯いていた顔を咄嗟に上げると、先程の怒っていた顔ではなく真っ直ぐに私を射すくめるような瞳で見つめられた。

掴まれた手首が熱い。

頭の中で警告音が大きな音で鳴り響いている。

早く。諦められなくなる前に、早く……。

「……離してください」
「あすか、聞いて」
「嫌です、離して。離して……っ!」
「お前が好きだ」
「……え?」

ぶんぶんと振り払おうとしていた手を止め、目の前の翔さんを見上げる。

何を言われたのか理解できず、ただ彼からの次の言葉を待った。

「好きだ。あすかだってわかってたはずじゃなかったか?」
「……嘘っ!」

首を横に振り睨みつけるように叫ぶ。

ずっと待っていたはずの言葉に喜ぶことも出来ず、力の限り腕を振って翔さんの手を振り解いた。