「しょ、さ……」

掴んでいた腕を離すと私の肩を抱いて引き寄せぎゅっと力を込めたあと、背中で庇うようにナンパ男の視界から遮られる。

大事なものを守るようなその仕草に意味なんてないはずで、後ろから見る翔さんの背中の広さとたくましさに縋りたくなる気持ちをなんとか抑えた。

酔っ払ったナンパ男は自分よりも十センチは背の高い物凄いイケメンの登場に少し正気に戻ったのか、舌打ちしながらもあっさり去っていった。

呆然としながらその後姿を眺めていると、振り返った翔さんが怒った顔のまま私を見下ろす。

「何もされてないか」
「……はい、大丈夫です」

私は小さく頷いたまま顔を上げられずにいた。

きっとここで『ありがとうございました』とお礼を言うのが正解なんだろう。

翔さんは上司として部下を助けただけ。

こんなことでいちいちキュンとしてる場合じゃない。

今までだってそう。優しい人だから、庶務課から連れてこられた私を気遣って居心地が悪くないように、上司として構ってくれていただけ。

それを今まで私が自惚れて受け取っていたから、こんな風に泣きたくなる気持ちを抱えるはめになった。

私が勝手に期待してしまっただけ。

「何してんだよ、危ないだろ。……泣いたのか?」

怒った顔をしていた翔さんが私の目元を見て眉を顰める。