あのデートの日。恥ずかしくなるほどベタなデートに連れて行き、夜景の見える展望台で彼女にキスをした。

何も口実のない初めてのキス。拒む間も与えなかったというのが正解だが、それでも蜂谷は逃げなかった。

あのまま帰したくないのが本音ではあったが、恥ずかしそうに真っ赤になった蜂谷の顔を見られただけでも前進したと思う。

耳まで真っ赤にしながらも悔しそうに上目遣いで睨んでくるのがたまらなく可愛い。

『うかうかしてると横から掻っ攫われるわよ。特にあの若いイケメンバーテンダーとか?結婚してても不倫だってあり得るわけだし』

ブラックジョークのつもりだろうがそんなのは笑えない。

やはり不倫は倫理に反した行為だし、いくら幸せになってほしい相手とはいえ手放しで送り出せないと思ってしまうのが本音だ。

そんな気持ちが滲み出たのか、少し険のある声が出てしまった。

「不倫なんかさせるか。美樹がどんだけ泣いたか知ったっつーのに。俺は絶対泣かさない」
『……ごめん、不謹慎すぎた。でも、それを本人に言えればいいのに』
「まだ今じゃねーんだよ」

言葉にして追い詰めるのはまだ早い。

ゆっくりと態度で示して、蜂谷にも俺への気持ちを育てて欲しい。

『それに……私も今幸せよ?』
「結果論だろ? ……もう切るよ」
『うん。じゃあ天野くん、頑張って』
「紅林さんも、元気で」