あの時は自分のことに精一杯で気に留める余裕すらなかったけど、彼女が本当に不倫していたなんて信じられない。

美人で人望も厚くて仕事が出来る、嫉妬で丸焦げになりそうなほど完璧な女性。

「らしいって、どこから」
「一昨日ふたりで飲んだ時に本人から。お前給湯室で中途半端に聞かされてたから、一応」

会社に不倫を知られて短期間でも異動させられるなんて、紅林さんはきっと傷付いているに違いない。

それを美山さんみたいな人に面白可笑しく中傷されればなおのこと。

もちろん不倫はいけないことだけど、二人のことは当事者じゃないとわからない。

大変な思いをしていると同じ女としてわかるのに、私は紅林さんの心配よりも傷付いている彼女と二人で飲みに行ったという事実にショックを受けている。

いくら毅然とした紅林さんだって、気心知れた翔さんと二人きりなら弱音だって吐くだろう。

それを受け止めて優しく慰めたんだろうか。

期間限定のアシスタントの私にすら優しく接してくれる素敵な上司の紅林さんを心配せずに、ただ嫉妬に駆られてモヤモヤとした感情が先に立つ。

そんな自分がとてつもなく醜く思えて、自己嫌悪で頭を抱えたくなる。

「そう、ですか」
「どうするんだろうな。幸せになってくれたらいいんだけど」

目を伏せながら笑った翔さんの横顔には紅林さんへの愛情が溢れて見えて、私は何も言葉を返すことが出来なかった。

ワンピースの入ったショップバックは、もう重たさを感じなかった。