それでも栞奈に連絡できないまま、週末を迎えた金曜日の朝。

「おはようございます」
秘書の高見さんが挨拶に来た。

「ああ、おはよう」

「今日のスケジュールです」

印刷された予定。

ん?

「ねえ高見さん。最近、常務や社長との打ち合せにロス時間が多いみたいだけど。向こうのスケジュールにあわせすぎなんじゃないの?」

機嫌の悪いのも手伝って、つい強い口調になってしまった。

「すみません」
「申し訳ありません」
なぜか、高見さんと栞奈の声が重なった。

「どういうこと?」

「実は・・・」

高見さんは、「私用で先月の担当者会議を栞奈さんに変わってもらいました。申し訳ありません」と謝った。

「それならそうと言ってください。それに、今井さんではまだ担当者会議は無理でしょう?」

「はい」

しばらく、何を言っても高見さんはうつむき謝ったままだった。

「今井さん。あなたも、できないことはできないと言いなさい。重役間のスケジュール調整なんて、あなたにできないでしょう?」

「申し訳ありません」
栞奈も頭を下げる。

「もういいです。今後は気をつけてください」
「はい」

2人は出ていった。

担当者会議は月末。
確か、栞奈が遅く帰宅した日。
なるほど、それで言えなかったのか。

なんだか嬉しくなった俺は、栞奈にメールを送った。
『週末映画に行こう。時間は合わせるので、連絡をください』

フフフ。
1人デスクに座って、含み笑いをする俺。

気持ち悪いと思いながら、つい笑顔にになってしまう。
これで、栞奈との関係も修復できる。
それが嬉しくてたまらなかった。