居酒屋でおなか一杯食べ、私達はタクシーで帰宅した。

「ありがとうございました。とても楽しかったです」

私はお礼を言い、離れに向かう。
専務は私を見送ってくれていた。

あれ?

カバンの中をゴソゴソ。

ない。
鍵がない。

嘘。
どうしよう。

「どうした?」

「いえ、あの・・・その・・・」

「これかな?」

チャリン。と専務が鍵を掲げた。

ああああ。

「いつの間に?」

「居酒屋で落としたの、やっぱり気付いてなかったか」

あー、またやってしまった。
大事な物をなくすところだった。

「ありがとうございます」
少しうなだれ気味に手を差し出す。

「しっかりしてくれよ」
「すみません」

「俺が拾わなかったらどうなったと思ってるんだ?」

クドクドとなかなか鍵をくれない専務。

「専務が拾わなかったら、もっと親切な人が拾って、すぐに渡してくれたと思います」

お酒のせいもありキレ気味に言ってしまった。

「渉だろ」
「ああ、ごめんなさい」

専務もムッとした表情で鍵を差し出した。

「お休みなさい。渉さん」
「おやすみ、栞奈」


ガチャ。
専務に背を向け、玄関の鍵を開ける。

「ああそうだ。栞奈、携帯は持ってる?」

「えええ?携帯もですか」

私ったら、携帯まで落とした?

ガチャガチャと音をたて、玄関先でカバンをひっくり返す。

あった。

「あればいい。じゃ、おやすみ」
鬼専務は楽しそうに帰っていった。

一体何なのよ。もー。

玄関に散らばったカバンの中身を前に、1日の疲れがどっと出てきた私はその場に座り込んでしまった。