コイノヨカン

ブーブーブー。
渉の携帯。

「会社から?」

もしかしてトラブルだろうかと表情が強張る。

「きっと定時連絡だ。心配ない」

重ねていた手を離し席を立った渉。

責任がある立場にいる以上、完全に仕事から切り離される事はないだろう。
秘書として側で仕事をしていたからこそわかる。
渉はいろんなものを背負っているんだ。

ブーブーブー
また、着信。

今度は私の携帯に健さんから。

「もしもし」
私はその場で電話に出た。

『栞奈ちゃん?』
「ええ」

『どう、ゆっくりできてる?」
「ええ、おかげさまで。健さん、どうかしました?」

時々メールが来ることがあっても、最近では電話がかかってくることが珍しい健さん。
何かあったんだろうと少し緊張した。

『いや別に。隣の部屋で渉に電話してるから、今なら栞奈ちゃん1人かなって思ってね』
「はあ」

確かに1人だけれど・・・

『こんな時だからできる精一杯わがままを言うといいよ』

「留守の間ご迷惑をかけます」

渉が本社に戻って以来、健さんとは良い関係を築いているらしい。
まだ若いふたりだけれど、これから先もずっと松田コンツェルンになっていく二本柱。どちらが欠けてもいけない人。

『新婚旅行ぐらいゆっくりしておいで』

「はい」

健さんって、とっても二枚目でお金持ちで仕事ができてすごく渉に似ているんけれど、人当たりという意味ではまるで正反対。
不愛想でまじめで面白いことなんて言わない渉に対して、健さんは明るくて優しくて女性の扱いだって上手い。
でも、私には少しつかみどころがないようで、本心が読めない。
この電話だって、きっと何かの意図があるんだろうけれど、

「栞奈?」

あ、渉が戻ってきた。