コイノヨカン

都内へはかなり車を飛ばし、1時間ほどで戻った。

時刻はすでに11時。
着いたのはテレビでもよく目にする有名病院。

「栞奈さんは・・・」
大地さんが私を見たけれど、

「できれば一緒に行きたい」と伝えた。
渉さんは私の手を握ってくれた。


外来駐車場を抜け車が止ると、どうやらそこはVIP用玄関。
絨毯が敷き詰められた廊下を進んで、エレベーターで病棟に上がる。

そして、
エレベターが開いた瞬間。
私はここまでついて来たことを後悔した。

廊下にずらっと並んだスーツの一団。
みんなが一斉に私達を見た。

スーッと姿勢を正した渉さんが、私をかばうように前に立った。

「渉君」
いかにも偉そうなおじさんが声をかけた。

ああ、この人知ってる。
本社の常務だ。
あ、うちの社長も。
他にもテレビや社内誌で見たことある顔がゾロゾロいる。
それに、奥の方には健さんの姿も。


「栞奈さん・・・わざわざありがとう」
近づいてきた奥様の声には、困ったなって響きが含まれていた。

「いえ・・・すみません」

おそらく、私が来るべきではなかった。

「渉さん、あなたどこの女を連れてきたの?場所をわきまえなさいよ」
奥様の後ろにいた女性が声をあげた。

「母さんやめろ。俺の知っている子だ」
健さんが止めてくれている。

でも、周囲の人達はみな健さんのお母様と同じ目をしている。
確かに今の私は、風呂上がりのすっぴんで、髪も洗いざらし、服だってほぼ普段着。
間違いなく浮いている。

「病状説明をしますが」
部屋から出てきた医師らしき人が言うと、

「はい」
当然のように渉さんが進み出た。

そうなんだ。
この人は日本を代表する財閥、松田グループの後継者なんだ。

顔つきもキリッとして、仕事の顔に戻った渉さんが、
「行ってくるから」
そう私に声をかけ、医師に続いた。