コイノヨカン

車を走らせて隣県の温泉街。

漂う湯煙。
行き交う観光客。
渉さんが宿の手配をしてくれて、高級そうな旅館に着いた。

「子供の頃、家族でよく来た旅館なんだ」

へえ。

私は旅行なんて行かなかった。
時々行く日帰りの遊園地や、月に1度の外食が唯一の楽しみだった。



「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
上品そうな女将さんのお出迎え。

「お世話になります」
私も頭を下げた。

大きな門の先には重厚な玄関。

その先に続く広い廊下は、古いけれどよく手入れされてピカピカ。

女将さんに案内され進んで行くと、綺麗なお庭が姿を現した。


「キレー」
思わずそう言ってしまう程美しい。

作り上げられた日本庭園の中にはゴミ1つなく、木の枝一本まで丁寧に剪定されている。

「専属の庭師が手入れをしていますので、季節ごとに違ったお庭が楽しめます。特に冬はこたつに入っての雪景色が最高ですよ」
なんて言われ、つい笑顔になってしまった。

「そう言えば、冬にこの庭で雪合戦をして怒られたなあ」
懐かしそうな渉さん。

フフフ。
かわいい。



通されたのは二間続きの12畳。
部屋には専用露天風呂も付いていて、かなり高そう。

「贅沢じゃない?」

部屋に入った途端、ケチケチ栞奈が顔を出す。

「良いんだよ。めったに来られないんだから」
「でも・・・」

「ほら、部屋の風呂はいつでも入れるから、大浴場に行こうか?」
「そうね」