私には何の力もなくて、何もしてあげられない。
渉さんの荷物になることしかできないけれど、

「渉さん」

「ん?」

「お誕生日おめでとう」


体を起こし、真っ直ぐに見つめる渉さん。

「聞いたのか?」

「はい」

「それで、出てきたのか?」

「今日のうちに言いたかったんです」

「最悪だろう?父親の命日が誕生日なんて」

「たとえどんな日でも、あなたが生まれた日は特別な日です」

渉さんは黙り込んでしまった。
困惑しているのか、感動しているのかは分からない。
ただ、私の肩に顔を埋めた。
私は、渉さんの背中に手を回した。
渉さんの肩が震えている。


「栞奈、ごめん」
絞り出すような声。

「いいんです」
今は、渉さんの側にいられることが嬉しい。

しばらくして、頭を起こした渉さんが唇を重ねた。

体温が伝わってくるるような温かなキスが、少しずつ角度を変えて深くなっていく。
段々と息が上がっていく私。
軽く舌でノックされると、渉さんが私の中に流れ込む。
こんなに心地いいキスは初めて。
ああ、このまま時間が止ればいいのに。

気がつくとシートを倒し、2人並んでルーフ越しに見える星空を眺めていた。