「彼氏なんていませんよ。仕事ではないのは当たってますね。」


「僕でよければ話を聞きますよ。人に話すと楽になるって言いますし。」


甘い優しい笑顔に騙されそうになる。
ここで話して本当に気持ちが楽になればいいのに。


でもそんな魔法みたいな話はあり得ない。


話が重くて気まずい空気になるのが目に見えている。
顔を合わせづらくなってこの店に来ることもなくなってしまうだろう。


息のつけるこの場所をなくしたくはない。


「今度、気が向いたら話します。」


グラスの底に少しだけ残していた液体を口に流しこみ席を立った。


「また、来て下さね。」


「はい。明日にでも。」


「それはぜひともそうしてください。」