「あ、夏樹。美麻帰ってきたぞ?」
「かッ!!!」
ベランダから顔を覗かせて、卓が言う。
卓を押しのけてベランダへ出ると、そこには黒い高級車が止まっていて、助手席から美麻が出てくる。
表情はよく見えない。 けれど運転席にいるであろう結城大河と何かを話しているのは分かる。 その横顔は微かに綻んでいる。
ごくりと唾を飲む音が響く。
「おい、美麻ーッ!」
結城の車が立ち去って、卓が大きな声で美麻の名前を呼ぶ、と。
「あれー?卓?何してんのー?朝比奈んちいるのー?」
「おー、今夏樹と一緒に飲んでるから美麻も来いよーッ!」
「うん。分かった! 一回自分ち帰って着替えてから行くねー!」
ベランダ越し、二人はそんなやり取りを繰り返す。 美麻がマンションのエントランスを走り抜けていくのと同時に、卓の服の襟を掴む。
「美麻、来るって」
ケラケラと呑気に笑う卓に顔を近づけ、凄む。
「なあ、美麻とあいつヤッたと思う?」
「知らん。本人が今から来るんだから、美麻に訊けば?」



