「じゃあ、行こうか。」

「へ?」

「朝比奈くん、また。 母は君の事もすごく気に入っているので、これからもどうぞよろしくね」

「こちらこそ。結城社長によろしくお伝えください」

肩を掴まれたまま強引に歩き出す。 朝比奈の方を振り返ると、眉間に皺を寄せて私の顔を睨みつけた。

と、思ったらべぇっと舌を出して顔を酷く歪ませる。 ちょっと…!助けてくれたっていいじゃないの!離せ、誘拐犯!


店舗でお客さんの接客をしている姿を見て、少し見直した。 でもこんな強引なのはどうかと思う。

こうして私の長い夜が始まってしまうのだ。 でも知っているのだ。自分の心は偽れない。

嫌だ嫌だと拒絶していても、高スペックの男に言い寄られて悪い気はしていない。 強引なのも嫌いじゃない。


人には期待をしない。 そう心に決めていても、どこかに期待している浅ましい自分が居る。

醜い自分丸ごと受け止めてくれる人がこの世界には居る。  …素顔を曝け出すのを拒絶しているのは自分なのに、なんて愚かなんだろう。