【完】傷だらけのプロポーズ


結城大河が呼ぶ’美麻ちゃん’は少しだけくすぐったい。
私はもう28歳だ。 ちゃん付けされて呼ばれる年齢でもないだろう。

「ここのメロンパンは絶品なんだ。 それにクリームパンも美味しいし、チョココロネもうまい。」

「…副社長、甘党なんですね。」

「あはは、バレた?でも総菜パンも美味しいよ。
今日は天気も良いし、暖かいから外で食べると更に美味しくなる。
つーか大河だってば、副社長って呼び方止めてよ」

この間も思った事だけど、不思議な人。 彼がこんな人間だって事は知らなかった。

副社長という立場で、母親の隣でいつも仕事をサポートしている姿はきちんとしていて、年齢は二つしか違わないのに随分大人に見えた。

けれど、話をしてみると思っているより子供っぽくて、思っているよりずっと喋りやすい。 彼の周り、ふわりとした柔らかい空気が流れている。