12「素顔の君を愛している。」朝比奈SIDE




その日の夜は初めて二人きりで美麻と朝を迎えた。 …とはいっても、男女の関係になったわけではない。

美麻の家で酒を飲みまくって、思っていた事を全部吐き出して、いつの間にか互いに雑魚寝をしていたら朝を迎えただけだ。

思っていた事は言えたけれど、たった一言言えなかった言葉がある。 「好きだ」こんな簡単な三文字が、それでもまだ言えない。

最初こそボロ泣きをして落ち込んでいた美麻だったが、暫くするとお酒の酔いも回りいつも通りに戻って行った。

「私だって、お母さんを何度も恨んだりしたわよ… こんな醜いあざ…」

美麻が自分のあざについてここまで語るのは始めてだった。
俺や家族以外の人間にそれを見せるのを極力避けている事は知っていた。

卓や奈子といった気心の知れている友達にだって、美麻は素顔を見せない。見せてはいなくとも、あざがあることは知っているだろうが。 俺はそれが少しだけ嬉しかった。自分が美麻にとって特別な存在になったかのように思えて。

美麻が一番気にしてるコンプレックスだと知っていたから、あえて自分から口にした事はない。 口にした事はないというか、気になりはしなかった。