奈子の電話を受け取りながら手鏡で自分の顔を見ると、顎に小さな吹き出物が一つ。 昨日メイクを落とさずに寝てしまったのが原因だろう。

仲良しな飲み友達である奈子や卓にだって未だ素顔は晒せない。

「それより夏樹んち泊ってたってマジ?」

「マジだよ。エントランスでばったり会っちゃったし、最悪。
それに朝比奈結局あの子と付き合うっぽいよ。特別な子なんだとか言ってたし…」

「ウッソ!」

奈子の大声が電話口に響く。 思わず携帯を耳から離す。

「うるさ。嘘じゃないよ。 昨日言ったでしょう?朝比奈の好きなタイプなの。 誰がどーみてもモテそうなマドンナタイプ。
あいつって昔からああいう女とばかり付き合ってるじゃない。でも、特別なんて言ってるの初めて聞いた…。
将来の事も考えてるって言ってた。もしかしたら朝比奈結婚する気なのかもしれないね」

「まさか…夏樹に限ってありえないよ…。 だって、夏樹はさあ……」

「何?」

「ほら、夏樹って昔から彼女出来ても全然続かないじゃん。今度だってすぐに別れちゃうよ」

「そんなの分からないよ…」