「あのー…朝比奈さん…」

「え?」

「さっきも聞いたけれど、朝比奈さんって彼女いないんですよね?」

「いないけど…」

黒目がちな大きな瞳はいつだって期待に満ち溢れている。 遠回しな言い方をしてくれる女だ。

そんなに皆から憧れの’朝比奈さん’の彼女になる事はステータスか?! 俺は表面は良いかもしれないけど、中々に最低な男だ。

モテる女だ。共に朝を迎えた男から告白されるのは当然だと思っている。

「私もいません。男性経験もそんなに多くないし、だから誰の家にだって泊まる訳じゃなくって」

はい、嘘!
男性経験があんまりない女がこんな小慣れた手口を使うか。
だからこういった恋愛の駆け引きゲームみたいなものはもううんざりなんだ。

小柄で小動物系。
肌が真っ白で、大きな黒目がちの瞳。

ジッと人を見つめる癖。 どうやったら男から好かれるか充分分かっている所とか
全部が苦手だ。

これ以上話をする事もなく強制終了させて、彼女を駅まで無理やり送っていく事にする。

神様の悪戯か。 爽やかな朝のマンションエントランス前で、再び美麻に遭遇する事になるとは知らずに。