「そういう事は、やっぱりお互いの気持ちが大切だと思いますし。ね?」

語尾が高く上がり、「ね?」と上目遣いでこちらを見つめる。

いつもだったらここで男の方が「付き合おう」と言うのが彼女にとっちゃセオリーなのかもしれない。

モテて仕方がなかった人生のはずだ。男の前で見せる顔も立ち振る舞いも、どこか放っておけないオーラも男好きする。

彼女のキラキラと光る瞳は、期待に満ち溢れていた。 俺からの言葉を待っている所だ。 だが、生憎告白するつもりはない。付き合いたいとも思わない。

意識がある時に一回ヤれたらラッキー程度。いや、そんな事しないけど。

「そうだね。いやあ、昨日は迷惑をかけて申し訳ない。
珈琲飲んだら駅まで送って行くよ」

俺の返答は彼女の期待したものではなかっただろう。ぽかんと口を小さく開ける表情を見れば、分かる。

そんな事より、美麻に誤解されたままじゃねぇか。

真澄を駅まで送って行ったら、あいつの家に行こう。 言い訳染みた事は言いたくないけれど、何もなかったんだ。

覚えていないのが悔やまれる。言い訳なんてないと思いつつも言い訳ばかり考えている自分が居る。

こんな時にまで、俺の頭を占めるのは美麻だった。