「溺愛って官能小説だよ」
「え?」
え、溺愛?
私の驚きと彼らの声がリンクした。
まさか、私以外にあの本を読んでいる人と出会う日が来るなんて。
振り返って今すぐ後ろにある席に駆け寄って、溺愛を読む人とお話してみたいけど私にそんな勇気はなく、ゆっくりコーヒーを口に運んだ。
「お前…そんなの読むのか?」
「そんなのじゃないし。官能小説を馬鹿にするな」
「いや、だってさ」
「読んでみれば分かる。これがどれほど奥が深いか」
「俺、文字ずっと見るの無理」
「最悪かよ。この本は、エロを含みながらも複雑な人間関係をうまく表現してる…面白いよ」
「へぇ」
…っ、あぁ嬉しい。
私が声を大にして言いたいことを彼が代弁してくれた。
ここに同じ思いや考えをしてる人がいてくれたなんて。
心の底から嬉しい。
まるで、私自身を肯定されたような気もする。



