好きでもあこがれているだけ。
 手を伸ばすこともしないわたしを笑うセリフ。
 好きなひとのカノジョと比べられて。
 おまえなんか勝てるわけがないって。
 心底ばかにされた。

「美香さんは観客席にいる」
「…………」
 言いたいことはわかってる。
 わたしは見ていられなかった。
 結城先輩が負けるのを。
「イチローさんは…ここにいる」
「……っ……」
 吸いこんだ息が喉につまった。

 だから?
 だから、なに?

 わたしが結城先輩を好きな気持ちは、わたしだけのものだ。
 わたしがどんなふうに結城先輩を好きだって、それを他人にどうこう言われたくない。
 
 (じゅん)
 きみがわたしをなんと呼ぼうと。
 どんな態度を取ろうと。
 年下だと思って……。
 二紀(にき)の友だちだと思って、許してきた。
 でも、こ…れは、だめっ。
 これは許せないよ。


 バン! と大きく開けたドアからは一段と大きな拍手の音。
 わたしは黙ってなかに入って、背中でドアを閉めた。
 もう二度と。
 もう二度と絶対。
 きみにはかかわらない。