わたしだけ、ざわめく通路で人迷惑なカカシさん。
 両手ではさんでみた頬は、お風呂あがりみたいにぽっぽかしてる。
 (あぁ……)
 なんという醜態。
 子どもの言うことに、マジになっちゃったりして。
 だいたい、ひとまえで女子と腕を組んで歩くとか……。
 あっちだって恥ずかしいでしょうに。
 困らせようとしただけだって。
 さっさと気づきなさいよ!
 わたしのばか!
「ふぅ……」
 大きく息を吐きだしたら、実取(みどり)がちらっとわたしを振り返り。
 それから……、
 ゆっくり4歩進んで立ち止まった。

 その背中に二紀(にき)がぶつかって。
 鼻を押さえてなにか言っているけど、狭い通路のざわめきにまぎれて、わたしの耳には届かない。

 行き交うひとのなかで、それでもわたしの目は追っている。
 絶対ひとごみにまぎれない《天使の輪っか》。
 ふいにそれは、髪をかき上げた実取の小麦色の指で飛び散って。
 わたしの目を釘づけにしたのは実取の笑顔。
 たぶん、二紀といっしょにいるから見せる、無邪気な笑顔。