(じゅん)。もう3日も休んでるんだ」
 夕食のテーブルで、母さんに茶碗を差し出しながら二紀(にき)が言ったとき。
 わたしの頭に浮かんだのは、どうやって返したらいいかわからないまま、今も部屋の中でラケットといっしょに、フックにかかっている準の黒い傘。
「あらまー、試験前に? どうしちゃったの? ケガ? 聞いた?」
 母さんは炊飯ジャーのふたをあけながら興味津々。
「このあいだの雨でさ。風邪ひいちゃったんだって」
「あっ……」
 わたしの(はし)からホワイトアスパラガスがツルッと落ちた。
「あーあー」
 二紀が言って。
 お皿から指でつまんで口の中へ。
「あらまぁ。一路(いちろ)、怒らないの? あなたの大好物じゃないの」
「…………」
 準が――風邪。
 わたしのせいだ。
 どうしよう。
「ふひひ…」変な笑い声をたてた二紀が、母さんに手を出した。
「明日、準のとこ行くから」
「お見舞い? それはいいけど。その手はなに?」
「もっちろん軍資金」
「そうねぇ……。準ちゃんママにはご丁寧なお礼状をいただいちゃったし。ママ、あの達筆にお返事するのは恥ずかしいから、あなたになにか持たせることには異議なしよ」
「やーりっ!」