正面玄関に止めてもらったタクシーを降りると、校内の駐車場に益子先生の車が見えた。
 バドミントンの技術を指導してくださる先生ではないけれど、休日返上でつきあってくださるんだなーとあらためて実感。
「センセ、ありがとう」
 みんなの代表で頭を下げて、いつもとちがう静けさに耳を澄ます。
 尖塔の時計は12時10分。
 見上げる空は真っ青だ。
 それはずっと忘れていたことを、ふいにわたしに思いださせた。
「わたしのハンカチ……どうなっちゃってるのかなぁ」
 今はもう、物語のなかのひとのように遠い、スクールバスの王子様。
「やっぱり、卒業されたのかなぁ」
 あれからずっと、すれ違うひとたちを見るのがわたしの習慣みたいになってしまったけど。
 世界から見れば点にもならない場所で、わたしの目はあのひとを見つけられないでいる。
「でもさ……」
 人影のない学校は、がらーんと広くて。
 青空はもっともっと広くて。
 ハンカチのようには折りたためない。
 わたしの手がにぎりしめられるものなんて……
「ま。これくらいよね」
 母さんの心づくしのおむすびが入った紙袋。
「さて。いそがないと。きっとはた迷惑に大さわぎだわ、あの子」