「……あのぅ、それ…は、なにやってんの?」
 空容器をゴミ箱に放りながら不吉な予感。
 せっせとおむすびなんか握っちゃって。
 それ、わたしたちのお昼用のごはんでしょ。
「決まってるじゃない。あなた、学校にコレ届けてちょうだい」
「うそっ!」
 ジョーダンじゃないよ。
 なんだって休みの日に学校に行かなくちゃならないのよ。
 しかもそれ、わたしのごはんじゃないの。
「なによ。弟がかわいくないの?」
「かわいくないね」
「んまぁ! 二紀(にき)は明日の試合のために、お休みも返上してがんばってるんじゃないの」
 (ふう…)
 いったい、いつからスポ根の母になったのよ。
 そりゃあ二紀は、数合わせとはいえ一応はレギュラーだもん。
 お休み返上でがんばるのは、あたりまえじゃん。
 関係ないね、わたしには。
「はい、できた。超特急ね」
「ばか言ってなさいよ。今日はスクールバスもないのよ。もう無理、無理」
「駅からタクシーなら間に合うでしょ」
 へっ?
 どうなってるのよ、この気前のよさは。
「こんなのお父さんに対する差別じゃないの?」
「あら、今からオカズは作れないじゃない。だいいちパパは、もう何百キロも向こうなの。だけど、学校はすぐそこなんですもん。ち一っとも差別なんかしてないわよ」
「あー、そう。じゃ、お母さんが持っていってやりなさいよ」
「まぁ。34歳も年上の年寄りを働かせる気?」
「…………」
 都合のいいときだけ年寄りになるんだから。