「いやだ、ちょっと。パパったら、ご飯ふたつ持って行っちゃったんですって」
 土曜の朝11時。
 キッチンで冷蔵庫をごそごそあさっている最中に、リビングで突然の大声。
「なにそれ。意味わかんない」
 ヨーグルト片手にのぞきこむと、母さんが受話器をふりまわしてジタバタしていた。
「いやだパパ。じゃ、二紀(にき)はオカズをふたつ持って行っちゃったのね?」
 ああ、そういうこと。
 まぬけな親子ね。
 理解したのでソファーに着席。礼。いただきまーす。
「…ええ。わかったわ。気をつけて」母さんが電話を切って唇をとがらせる。
「ちょっと、一路(いちろ)。聞いてた?」
 聞いてましたよ。
「お父さん、新幹線から? もうお弁当をひろげてるの? どんだけ食い意地が張ってるんだ」
 やれやれ。
 休みにドタバタ出かける男ふたりに、せっかくお弁当を用意したのにねぇ。
 うかつ夫にまぬけ息子。
 不幸の二重奏ですね。
 久々に笑える話だわ、こりゃ。

 ところが話はヨーグルトを食べているあいだに、笑い話ではなくなってきた。