その電話は別にいきなりというわけじゃなかった。
 男バドが初の初戦突破。
 わたしだって女子の会場でその連絡には飛び上がるくらい興奮したけど。
 これで昼トレも継続だって。
 自分の戦果は棚に上げて、お弁当の心配まではじめて止まらない二紀(にき)からのスタンプ連打で急速冷凍。
 おめでたいのに。
 うれしいのに。
 どうしていいかわからないまま帰宅したんだから。


「姉ちゃん、(じゅん)から電話」
 ノックと同時にドアを開けたらノックの意味がないと思うんだよ、弟よ。
「だれが入っていいって言った? 着替え中だったらどうすんの?」
「目が汚れるねぇ」
「なんだと?」
 どこまで読んだのかすらわからなくなっていたマンガ本を、投げるふりをしながらベッドから起き上がると、二紀がニヤニヤ笑いながらケータイをかざした。
「準、聞いてるぞ」
「………ひっ…」
 変な音で鳴ったのは喉。
 ケータイならケータイって先に言え。
「あ…んた、聞いといて」
 ぐいぐい肩を押して廊下に出そうとしているのに二紀は下がらない。
「なに言ってんの。明日からの昼トレのことでしょ。…ってかね。お互いさっさとケー番交換してよ。なんでぼくが仲介役なの」
「…………」
 いや、だって、なんで後輩と?
 …というか、想像どおりなら用件は聞くまでもないし。