ささやきはピーカンにこだまして

「それじゃあ…。ぼく、これでおいとましますね。いただきっぱなしで、お皿も洗わなくてごめんなさい」
「まぁまぁまぁ。そんなこといいのよ、(じゅん)くん。――食後のお茶は? そんな時間もないかしら?」
「すみません。実を言うと――。試験が終わったら、敷地の草取りを手伝うって、母と約束しちゃったんで」
「まぁ、お母様と? ……やさしいのねぇ、準くんは」
 ひきょうなワザ。
 きみはその気になれば、二紀(にき)よりもあっさりと、年上の女性の気を引くことができるのね。
「またいらっしゃいねぇ。今度はゆっくり。ねっ」
「はい。ありがとうございます」

 母さんをすっかりファンにして。
 準は、満足そうな二紀に腕を引かれて帰っていった。
「ふぅ………」
「ほんと、良い子ねぇ。しっかりしてて、ハンサム」
 母さんはご機嫌で洗濯にいくけど、わたしは背中がばきばき。
「疲れた……」
 別にどうってことない。
 ただ、ふつうにふるまおうと思っただけなのに。
「あっ」
 リビングで、ソファーにもたれかかって飛び退(すさ)る。
 準が、座ったところ。
「いやっ」
 意識しだしたら止まらない。
 準が歩いたところ。
 準がさわったテーブル。
 準が見た、部屋――。
「どうしよう」