ささやきはピーカンにこだまして

「今度黙ってこんなことしたら、殺すわよっ」
「ちょっ、ライト! …ゃ、スリッパ! ……姉ちゃん!?」

 あいつはただの後輩。
 弟の、友だち。
「…………」
 大丈夫。
 わたしは高2。
 オトナなんだから。



 その夜。
 大晦日以外では初めて午前3時を差した時計の針を見た。
 壁一枚向こうにあいつが寝てる。
 そう思ったら、どうしても……、どうしても眠れなくて。
 父さんがゴルフに行くのを知っていたなんて、生まれて初めて。
 そして、そのまま午前6時。
 誕生日の外食に出かけるときみたいに、なにを着ようかさんざん迷ったあげく。
 結局、わざとらしくないように、定番のジーンズとTシャツに着替えて。
 朝の光がめちゃくちゃまぶしいのに腹を立てながら、それならいっそ浴びてしまえ…とベランダに出たのが午前7時。
 日曜日の朝7時に起きているなんて前代未聞。
 ニワトリにでもなった気分。

 しばらくぼーっと庭の芝生のうえでチュンチュン鳴いているスズメたちをながめていて、あまりののどかさに、やっと眠いと思えてきたころ、ベランダに続く二紀(にき)の部屋のサッシの窓がカラカラと開く音がした。
 反射的に振り向いて見たのは、見慣れた二紀のL.A.レイカーズの黄色いスウェットの脚。
 (…だよね)
「二紀ぃ、起きたんならスリッパ返して。アシ、冷たい」
 わたしったら片っぽ裸足。
 すっかり忘れていた。
 (ああ、まぶた、落ちるぅ…)
 手すりにくたりと寄りかかると、おとなりの猫が、さらに眠気を誘う伸びをした。