ささやきはピーカンにこだまして

 この家に引っ越してきて、もう何年になるかなんて忘れたけど。
 階段をあがるのに、手すりにつかまらなきゃならないなんて。
 な…にごと、よぅ。
 どうなってるの、わたしの脚は。
 全然、動かない。

 あいつがソコに、いる。
 6段先に。
  二紀の部屋に。
 5段先に。
  わたしの部屋のとなりに。

(じゅん)くーん、どーぞぉ、いらっしゃいな」
 廊下で母さんが準を呼んだ。
 ばかばか、わたしはまだココよ。

 かちゃっ

 二紀の部屋のドアが開いて。
 わたしたちがすれちがったのは上から3段目。
 狭い階段を、準はかまわず降りてきた。
「まったく。どこまで子ども扱いなんだっ」
 しっかり両腕で胸元をかかえこんで、手すりにへばりついたわたしの右肩に、準の右腕がするっとニアミス。
「そんなかっこで! 何度もひとの前をうろうろしないでよ」
 そんなこと!
 言われなくたってっ!
 3段を駆けあがった先で、全開のドアから二紀がひょっこり顔をだす。
「あ、姉ちゃん。ねぇ、デスクライト貸して? 準ねぇ、本を読まないと眠れないんだって」
 ばか二紀、あほ二紀、とんま二紀!
 蹴りとばそうとした脚をよけられて、わたしの右スリッパは二紀の部屋の中。
「なんなんだよぉ、いきなり!」