もの思いにふけったせいで、乾かしきれていないくしゃくしゃの髪のまま、キッチンで、父さん用の炭酸水をコップに注いで一気飲み。
「ぷは――っ」
 お風呂上がりの刺激はチョー気持ちいい。
 二紀(にき)は最近『ぼくはスポーツマンだから』って、涙目で苦手な牛乳を飲み干すようになったけど、あれは絶対、(じゅん)のまねだ。
 ストイックなスポーツマン。
 がんばり屋さんの二紀は、案外ちゃんとしたスポーツマンになれるのかもしれない。
 そのころ、わたしはもう大学部へおさらばしてるから、知ったこっちゃないけどさ。
「…………」
 ところで。
 コン! とコップをテーブルに置いて、家の中が異様に静かなのに気がついた。
 母さんは今、わたしと入れちがいにお風呂に入っていった。
 父さんは接待ゴルフで明日は伊豆だって。朝、言ってたっけ?
 でも二紀は?
「二紀? ちょっと!」
 返事しなさい。
「や、やだ」
 リビングにスリッパだけ置き去りにする勢いで、お風呂場に突進。
 どんどん どんどん
 お風呂場のくもりガラスのドアを連打。
「お母さん! 二紀がいない」
「…な一にぃ? ご近所迷惑だから、やめて」
 ざざ-っ
 くもりガラスからでも、のんきにバスタブに浸かった母さんの気配はわかる。
「二紀がいない! だれもいない! ちょっと母さん!」
「あたりまえでしょ。パパは明日ゴルフで朝早いから、耳せんして、もう寝てるわよ」
「二紀は?」