二紀(にき)が初めて経験する、競技としてのバドミントンにのめりこんだのは、結城先輩が二紀を最初からダブルスに起用したからだと思う。
 それも結城・真澄ペアのように《仲間》として対等なコンビじゃなくて、司令官として仲間を使う立ち位置で二紀を仕こんでいるあたり、性格を読まれちゃったねぇと苦笑してしまうけど。
 どうなんだろう。
 見出してもらうって、それもひとの幸せなのかな?

『姉ちゃんは気楽でいいよね』って二紀は言うけど。
「そうかもねぇ」
 わたしはだれかに期待される人間じゃないし。
 自分も自分になにも期待してないから……。

 真っ黒で、まっすぐで、さらさらな髪。
 どんなに努力したって、それはわたしとは無縁のものだってあきらめた時点で、なにもかもどうでもよくなっちゃったからね。
 ほとんど同じ顔なのに、二紀は自分が大好きで、わたしは自分が大きらい。
 ばかみたい。


 お風呂上がりに洗面所の鏡で胸のアザを確かめていたら、どうでもいいことを考えて落ちこんだ。
 二紀のせいだ。
 二紀が余計なことを言うから。
『姉ちゃんさぁ、準になに言ったのよ。あいつ、試験中も休み時間になると、なんかぶつぶつ言いながら中庭でラケット振ってたぞ』
 …ですって。
 笑っちゃうよね。
 なんだかんだ言って、結局あいつ、わたしにシャトルをぶつけてたんだよ。
「別に…いーんだけど、さ」