まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり







まるで白雪姫のような透き通る君の頬がほんのり紅く色づく。




潤んだ目で見つめてくる彼女の肩を寄せる。





そしてお互いに、この先の僕達の関係を瞼の裏で確認し合う。





そっと、新雪に足を踏み入れるように口を重ねた。優しく、なるべく弱く。








お互いをこれ以上傷付けあわないように…。















キーンコーンカーンコーン





始業のチャイムが鳴る。





「みんな〜おはよっ!!」





遅刻してきたくせに反省した態度は一切見せない隣の席の女子。茉莉奈(まりな)





茉莉奈は、漫画で説明するとTheヒロイン的存在だ。






そう例えば、今明らかに食パンを食べながら登校しただろうという口周り。




にも関わらず、手入れの行き届いた内巻きのミディアムヘアー。




彼女を嫌うものはいないと言うほど、明るく朗らかな性格。





全てを駆り備えた本当に完璧な『ヒロイン 』だった。







そして、俺の彼女だ。意味が分からないだろう。俺もだ。






先週本当によくあるベタな感じで告白された






ほら、体育館裏で、放課後という感じに。






案の定、彼女の親友らしき黒い塊達が2個ほど隠れる気もなく覗いていたし。





こんな完璧な女の子と付き合えるのは最初で最後かもしれないし。







何せ、好きな子もいなかった。









俺には断る理由が無かった












俺たちの関係はもちろん次の日から周知の事実となっていた。



俺の1番の相棒とも言える直樹(なおき)が母さんみたいに泣き真似をしながら擦り寄ってきた。






「あらまぁぁ、もうあんなに立派な人が奥さんだなんてっ。ママ感動してきちゃった!結婚披露宴はいつ??茉莉奈ちゃん泣かせたら一生家に帰らせませんからねっ!」











やかましい








「はいはいお母様。シッシッ」










べっとりくっついてくる直樹を手で祓う








いつもは遅刻してくるはずの茉莉奈は先に席に着いて、塊と話していた。










それで良かったのに、
何故か俺が席に着くと塊はにやにやしながら分解していった。ふざけるなよ!今じゃねえだろ!












なぜだか焦ってしまった。










いつもは下ろしているミディアムを束ねていた。







少し赤い耳を出している茉莉奈が俺に呟いた




「おはよ」






「おう、おはよう」










この気まずさをなんて表せばいいんだ。










傍から見れば甘酸っぱい青春。





ただ俺にはまだ熟していない苦い苦い得体の知れない『何か』でしかなかった。











そんな俺には気づく余地もなかった。













明らかに空気感の変わった俺たちを見て哀しそうにしている奴がいたことに。