「ここ最近、食事が偏りがちだと思いましたので、ビタミン剤をもらってきました。飲んでください」

ペットボトルの水を差し出し、圭介に睡眠薬を蘭は手渡す。いつものように無表情で接しているため、気付かれることはないだろう。

「あ、ありがとうございます」

圭介は首を一瞬傾げたものの、すぐに薬を飲んでくれた。蘭はホッとしながらホテルの部屋へと向かう。圭介とは別々の部屋とはいえ、隣同士だ。

「おやすみなさいませ」

「おやすみなさい。また明日!」

圭介の言葉に、明日なんてあるかわからないと思いながらも蘭は頷く。そして圭介が部屋に入ったことを確認すると、蘭はロビーへと急いだ。

エレベーターを待つ時間がもったいなく感じ、蘭は階段を駆け降りていく。しかし猛スピードで階段を駆け降りているというのに、息一つ乱れない。

「深森さん、ごめんなさい。皆さんも、ごめんなさい」

何度も謝りながら蘭は駅へと向かい、電車に飛び乗る。そして四十分ほど電車に揺られ、ゴーストタウンと思うほど廃れた町を歩いてたどり着いたのは、廃校だった。

「……」

蘭はブローチを握り締め、中へと足を踏み入れた。